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トピックス : 中央公論 2014年9月号 拉致問題-今度こそ、北朝鮮の「本気度」を見極めよ
投稿日時: 2014/9/12

事態を動かした日朝それぞれの「環境変化」
  小泉元総理が時の金正日総書記に強く要求したことに端を発する、北朝鮮による拉致被害者の「再調査」を巡る日朝両国の正式な協議は、二〇〇八年九月の福田内閣退陣以降、頓挫した形になっていました。政権交代がちらつく日本の政治の混乱を見て取った北朝鮮政府が、交渉の場から「引いて」しまったからです。ですから五月二十九日に拉致問題に関する「日朝合意文書」が発表され、正式協議が再開したことは、この問題に関する久々の前進と受け取られています。
  実は昨年あたりから、北朝鮮が日本との接触を強めてくるのではないか、拉致問題解決に向けたチャンスが巡ってくるのではないか、という見方が、関係者の間でも出ていました。最高幹部であった張成沢氏の処刑以降、北朝鮮と中国とのつながりは、さらに険しいものになりました。ロシアとも極めて良好な間柄とは言えないし、米国には「ならず者国家」のレッテルを貼られたままで、決して枕を高くして寝られる状況にはありません。そうした対外環境の変化、現状認識を背景に、北朝鮮側に日本との関係を再構築したい、という思惑が働いたのは確かだろうと考えます。
  拉致問題の解決を展望した時、北朝鮮自身の大きな「変化」も考慮しておく必要があるでしょう。二〇一一年に、金正日氏から金正恩氏への「政権交代」が行われました。正恩氏が父の政治路線を継承するとしても、日本人の拉致自体は彼が指示したものでないのも事実です。今の最高指導者は、父親とは違うスタンスでこの問題に臨むことも、やろうと思えばできるわけです。
  日本でも民主党政権が倒れ、拉致問題の解決に強い意欲を見せる安倍内閣が誕生しました。事態を動かせる客観的な条件は確実に広がったと言っていい。ある意味、非常に大きなチャンスです。ようやく始まった協議をしっかり進めていく必要があるのは、言うまでもありません。
  ただし、残念ながら手放しで喜べない現実も、見ておかなければなりません。今回の「合意」について、「二〇〇二年の『平壌宣言』とどこが違うのか?」という質問を受けます。あの文書を一読した私の印象は、「ベースに流れているものは、『宣言』と変わらない」というものでした。実はそこが大問題なのです。
  ご存じのように、北朝鮮による拉致というのは、一九六〇年中頃から八〇年代にかけて、罪のない日本の若者がいきなり拘束され、無理やり連れ去られた事件です。日本の国家主権、国民の生命と安全に関わる重大問題で、この根本解決なしに、日朝両国の正常な外交関係など、ありえません。まず拉致された人々の状況をすべて明らかにし、生存者を全員救出し、その後、国交正常化に向けたステップを踏んでいく、というのが国際社会での基本原則です。


敗戦後の日本外交を象徴
  ところが第一次小泉訪朝の時に、両国が交わした「平壌宣言」では、政府の為すべき課題は日朝国交正常化であり、そのためには、拉致被害者が犠牲になっても致し方ないという姿勢が鮮明に表れていました。「双方は日朝平壌宣言に則って、不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、国交正常化を実現するために真摯に協議を行った」という書き出しで始まる今回の「合意」も、それと何ら変わるところがありません。やはり拉致問題は、「懸案事項」のワン・オブ・ゼムの位置づけにとどまっています。「ベースが変わっていない」というのは、そういう意味です。
  それにしても、外交関係者がこれほどまでに北朝鮮との国交正常化を急ごうとするのは、なぜなのか? 北朝鮮は、近隣諸国の中で日本が承認していない、唯一の国です。戦後、すべての国と国交を樹立するという「至上命題」を自らに課してきた外務省にすれば、文字通り最後の関門。そこを突破して、積年の目標を達成したいという思いが、抜き難くあるのでしょう。
  しかし、そんな「使命感」に駆られた結果、自国民の安全を守るという外交の基本が歪められてしまったら、本末転倒と言われても仕方ありません。「平壌宣言」と、そして今度の「日朝合意」の底流にある考え方、それは、自国を守る、自国民を守ると言えなかった敗戦後の日本外交を象徴しているものといえましょう。

事件をうやむやにし幕引きを図る?
  「日朝合意」の問題点を、いくつか具体的に述べてみたいと思います。
  文書では、拉致問題について、「北朝鮮側は(中略)すべての日本人に関する調査を包括的かつ全面的に実施し、最終的に、日本人に関する全ての問題を解決する意思を表明した」とされました。その言や良し、ですけれど、これは「今回やるのが『最終的』な調査ですよ。これで日本人拉致被害者に関する問題は打ち止めです」と読めます。「包括的な調査」の結果、被害者家族や国民が完全に納得のいく成果が得られるのならいいのですが、その保証はありません。
  たとえば、前回の調査で「自殺した」とされた横田めぐみさん。北朝鮮側からは、入院していた病院の裏庭で、木の枝に紐をかけて首を吊った、という説明がされました。ところが、日本の調査団がその病院まで行き、院長にどの木か尋ねたところ、指差した先には人間の体重を支えられるような枝のある木はなく、周辺の樹木も同様だったそう。彼女に関しては、病院の「入退院」台帳を「死亡」台帳と書き換えているなど、説明を信じろというのが無理な状態でした。「死亡した」とされた他の拉致被害者についても似たり寄ったりで、その信憑性には全く信を置けないものでした。今回、もし北朝鮮が同じようなずさんな「調査結果」を示したうえで幕引きを図ろうとした場合、国交正常化を最優先に考える外交筋が妥協してしまう恐れはないか。あの文書を読んで真っ先に感じた心配は、まさにそのことでした。
  今回の調査に当たって北朝鮮は、「特別の権限(全ての機関を対象とした調査を行うことのできる権限)が付与された特別調査委員会を立ち上げる」と合意文書で表明し、実行しました。従来なかった動きだと期待を表明する論調もありますが、これも頭から信じるのは危険です。
  たとえば、調査委員会のトップに就いた徐大河という人物には「国防委員会安全担当参事兼国家安全保衛部副部長」という長い肩書が付いています。でも、今までどんなキャリアを積んできた人物なのか、日本人拉致問題の調査責任者としてふさわしいのは何故か、といった詳しい説明は一切ありません。北朝鮮は肩書など、勝手に作れる国であることを、忘れてはなりません。
  そもそも拉致被害者は、完全に北朝鮮政府の管理下に置かれており、「日本に帰りたい」などと発言できない環境に、縛り付けられているのが実情です。また今回の「合意」では、北朝鮮は被害者の「調査の状況を日本側に随時通報し、調査の過程において日本人の生存者が発見される場合には、その状況を日本側に伝え、帰国させる方向で去就の問題に関して協議し、措置を講じる」となっています。しかし、曽我ひとみさんの夫、ジェンキンスさんは、二〇〇四年、平壌で小泉総理(当時)から「日本に一緒に行きましょう」と強く説得された時、「その場で日本に行きたいとはけっして言えなかった。その時、日本に行きたいと答えていたら、直後に自分は殺されていただろう」と話していました。
  今回の合意文書を読んだジェンキンスさんは、「拉致被害者が『北朝鮮の人と結婚して子どもも生まれているので離れたくない』と言っていると、北朝鮮が説明したり、そう言わせるように仕向けたりするだろう」と新聞のインタビューに答えました。まったくその通りだ、と私も思います。被害者が発見された場合には、日本政府関係者が速やかに面会し、人定確認のうえ、ただちに日本に帰国させなければなりません。
  被害者は北朝鮮では自由な発言はまったくできないということをしっかり認識し、まず日本に帰国させ、去就は日本に帰国してから時間をかけて決めればいいことです。
ちなみに、外務省にその点を質したところ、「『帰国させる方向で』という文言を入れさせました」という答えでした。私が北の当局者だったら、そのくらいの言葉は喜んで入れるでしょう。
  これでは、被害者が見つかっても実際には帰ってこないこととなります。そのことに合意したのは、やはり大きな問題であると考えます。
 「身の安全の確保」は、喫緊の課題
以上述べてきたような問題意識を基に、七月四日、超党派の「北朝鮮に拉致された日本人を早期に救出するために行動する議員連盟」(平沼赳夫会長)は、「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」などと連名で、安倍晋三総理に対する申し入れを行いました。「北朝鮮との協議にあたっては、段階的に期限を設定するなど、北朝鮮側が全ての拉致被害者を帰国させるとの決断が為されているのかについて日々、確認をしつつ、十分慎重な判断と対応をしていただくこと」を、あらためてお願いしたものです。
  二〇〇二年に私が拉致被害者家族担当の内閣官房参与に就任した時、安倍総理は官房副長官でした。〇六年の第一次安倍内閣では、拉致問題担当の総理補佐官としてお仕えしました。その時の経験からしても、その後の発言を伺っても、安倍総理ご自身がこの問題に正面から取り組む意志をお持ちなのは、私にはよくわかっています。
  ただ、総理大臣がすべての文書に目を通すわけではありません。「外」にいるから気づけることもあります。今後も、平沼会長を中心に、必要だと思われる事柄については、問題提起を行っていきたいと考えています。
  ところで、今回の「申し入れ」には、あえて「被害者全員の安全確保」についての要請を盛り込みました。私たちが今一番恐れているのは、日本政府から調査を求められた北朝鮮が、被害者を選別し、結果を意図的に「つくる」こと。はっきり言えば、日本に帰られては都合の悪い生存者に危害を加えないか、ということなのです。
  交渉は、常に「最悪の事態」を想定し、そんなことが起こらないように配慮しながら進めなければなりません。関係者は「日本のDNA鑑定技術は世界一で、死亡時期も特定できる」という情報発信を行っています。政府レベルでも常に北朝鮮側に警告を発しながら、救出に向けて動いていただきたいと思っています。

国交正常化の条件は何か

  当然のことながら、私自身、北朝鮮との国交正常化を望んでいます。問題は、「どんな状況になったら、それが果たせるのか」です。
  私は、金正恩第一書記以下、北朝鮮政府が、拉致してきた日本人の状況を完全に明らかにし、生存者については無条件で日本に帰す決断をし、その作業を始めた時点で、初めて具体的な交渉に入れるのではないか、と考えています。北朝鮮が「すべての日本人を帰す」という決断をすれば、それは必ず我々のほうに伝わってきます。ところが、何度も申し上げるように、今回の「日朝合意」では、そうした意志を確認することができません。
  日本人の誰と誰を連れ去り、その人たちは今どこでどうしているのか─。日本では知りえない被害者の状況を、北朝鮮はあらためて調査するまでもなく、すべて把握しているはずです。そのリストの提出を要求し、北朝鮮が明確に答えるか否かで、北朝鮮の本気度を測れるのではないでしょうか。今、日本政府がやるべきことは、被害者の現況リストを強く要求することであると思うのです。
  北朝鮮に対する制裁の解除も、そうした相手の意思を見届けてから実行すべきでしたが今回、北朝鮮の特別調査委員会設置に伴って、政府は人的往来の規制、携帯輸出届出の金額の規制、人道目的の北朝鮮籍船舶の日本への入港禁止という三点の制裁解除を決めました。国連の制裁に加えて、日本が独自に対北朝鮮制裁を行ってきたのは、拉致被害者を日本に帰国させるという北朝鮮の決断を促すためのものだったはず。「国交正常化交渉」を継続する手段のために使うものではないと思います。解除を決めたということは、政府は、公表はできないがリストを受け取ったと考えることもできます。もしリストも得ていないのであれば、やはり憂慮の念に堪えません。
  とはいえ、現実に制裁が解除された以上、北朝鮮が約束を実行するように、より注視してその動きを見ていかなければなりません。「申し入れ」にも書かれていますが、仮に誠意ある回答を出さない場合は、制裁をより強く復活させるのは当然ですし、そうした日本側の意志を明確に伝えて、交渉に臨むべきだろうと思います。
  冒頭で述べましたように、北朝鮮の事情を考えるならば、拉致問題の抜本的な解決に向けた客観条件が、近年になく整いつつあるのは確かなことです。国交正常化の陰に埋もれさせずに、拉致被害者救出に向けて、政府は最強の交渉をすべきです。今、まさにチャンスなのですから。そして必ずや成果を勝ち取るうえで最も大事なのは、世論の力にほかなりません。そこが独裁国家、北朝鮮との決定的な違いです。
  人質にしろ拉致にしろ、自らの意思とは関係なく他国に連れ去られた人間がいたら無条件で元に戻す、原状回復を図る、というのは、国際社会の常識です。不幸にも異国で亡くなったのなら、遺骨を家族の元へ返してもらわなくてはなりません。
  今この瞬間にも、自由にものも言えず、自由に行動することもできず、監禁状態に置かれ、もしかすると体調を崩しながらも、救出の手を待ちわびている日本人がいます。巡ってきた「チャンス」を無にしないためにも、もう一度この問題への関心を高め、支援の声を上げてほしいと思うのです。



 
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